「数えずの井戸」 京極夏彦
番町皿屋敷をモチーフにした物語。
この世にも、自分にも、何かが決定的に欠けていると思っている青山播磨。
世の中は、数えなくても常に満ちている。数えるから足りなくなるのだと思っている菊。
数などはどうでもいい。欲しいものは全て欲しいと強く望む吉羅。
物語の全編を通じて、この世は満ちているのか?欠けているのか?と問われてる気がした。
小股潜りの又市が、絡んでいたので、菊の置かれた状況が仕掛けによって、好転するのかと
期待したが、最悪のラストになって切なかった。
「DOWN TOWN」 小路幸也
成長していく物語。
店主のカオリが、帰って来ない恋人を待つ目的で始めた「ぶろっく」が、ラストには、常連の皆の
心の拠り所として新たな居場所になって本当によかった。
本作も小路さんの作品らしく、登場人物が多く、そして皆が皆、心根の美しい人ばかり。
いい人ばかりで物語が成立するのが不思議だけど、これが小路ワールドだなと思う。
「ハンニバル・ライジング 上下」 トマス・ハリス 高見浩訳
原作を読むと、映画がいかに忠実に作られていたかがわかるが、それもそのはずで、
トマス・ハリス自らが脚本も手掛けていた。
幼い頃のハンニバルが、妹ミーシャを優しく庇護している場面を読むと、後に二人に襲い掛かる
凄惨な出来事が余計に辛く思える。
やがて青年になったハンニバルが、自分達を苦しめた犯人達を容赦のないやり方で狩っていく・・・・
残虐で崇高で限りなく美しい物語だった。
多田と行天のシリーズ第2弾。
今回もクールで幾分常識を持ち合わせた多田と、常識とかけ離れた大人子供の行天のコンビが面白かった。
でも、この二人には、心の奥底に今も血を流し続けている傷口があり、楽しいだけでは終わらない。
ますます続きが楽しみ。
時は未来。人類は皆、呪力と呼ばれるサイコキネシスを操り、地球には怪物めいた新生物が
多数棲息している。
SFにアレルギー反応を起こす私でも、これは面白く読めたのは、呪力というオカルトめいた力が
興味深かったから。
「へっつい飯 料理人季蔵捕物控」 和田はつ子
料理人季蔵シリーズの第8弾。
今回も噺にちなんだ料理を塩梅屋が振舞う連作短編になっていた。
「天国旅行」 三浦しをん
巻頭には、「せまいベッドの列車で天国旅行に行くんだよ 汚れた心とこの世にさよなら」と記されており
巻末には、「天国旅行」というタイトル及び巻頭の歌詞は、THE YELLOW MONKEYの曲から
採らせて頂いたと記されている。
心中をテーマにした7編からなる短編集。
同じテーマで書かれていても、救いのある話もあれば後味のよくない話もあった。
印象に残ったのは「初盆の客」と「星くずドライブ」
「実録 死体農場」 ビル・バス&ジョン・ジェファーソン 相原真理子訳
検死官シリーズに「死体農場」という同名の小説があり、そちらを先に読んでいたので、
実在する死体農場の創設者であるドクター・ビル・バスの著書を読むのは楽しみだった。
死体農場とは、世界でも類を見ない、人間の腐敗について調査する施設である。
ビル・バスは、法人類学者であり、彼の行なっている仕事は、ドラマBONESでお馴染みなので
ドラマのファンも非常に興味深く読める内容だと思う。
ビルは、自分の輝かしい業績ばかりを本に記すのではなく、自分の屈辱的とも言えるミスについても
隠さず記している。
そして、そのミスを次のステップへのきっかけにしているのが素晴らしいと思った。
「厭な小説」 京極夏彦
京極さんの現代小説は珍しいなぁと思いながら読んだ。
それにしても・・・どれも後味の悪い話ばかり。
中でも「厭な女」が特に厭。
「極北クレイマー」 海堂尊
北海道極北市の市民病院に、半ば左遷扱いで赴任して来た外科医の今中の物語。
ストーリー自体も面白かったけど、合間合間に聞いたことのある名前が出てくるのが楽しかった。
厚生労働省からやってきた頭脳明晰・・・明晰すぎて変人の姫宮女史の上司は白鳥だし。
ラストには速水も登場するし。
「ジーンワルツ」のマリアクリニックの院長の息子である三枝も登場するし・・・
いろんな海堂作品のスピンオフ作品としても楽しめた。