本屋で表紙の色合いが気に入ってジャケ買いしたのですが、当たりでした。
田口ランディは、数冊読んだことがあるぐらいですが、割と好きな作家です。
この本は、あとがきで著者が言ってるように、目に見えない存在が登場したり、ありそうでなさそうな
出来事が起こったりする短編集です。
かと言っても、オカルトチックな話ばかりでもないのですが。
とにかく、10編全てがバラエティーに富んでました。
例えば、高校生の時に死んでしまった女の子が、現在も当時の彼氏の部屋に霊として住みついている
切ない話や、いじめが原因で学校の体育倉庫で、今まさに自殺しようとしてる少女の話や、民族音楽の
デュオのふたりが、クリスマスに病院で思わぬ観客の前で、コンサートを行う話・・・
一編一編に大なり小なり感動する箇所があって、夢中になって読みました。
私が、特に気に入ったのは、「西風の日」という話です。
主人公の女性は、若い頃には男性に混ざって過酷なヨットレースに出場していた経験を持つのに、
現在は、ヨットの世界から足を洗い、男性ウケする愛される女性を演じています。
そんな彼女が、現在の彼氏(青年実業家)が所有するヨットで、久しぶりにクルージングに出ることに
なり、そこにヨットを動かすクルーとして雇われたのが、昔、彼女のヨットのパートナーでもあった
元彼。
でも、か弱い女性を演じている彼女は、ヨットに関する知識があることを今の彼に隠しています。
そんな訳ありのクルージング中に、ふいに強風にヨットが煽られ・・・
この元彼のヨットマンが彼女に昔、言った言葉・・・・
「オマエは女だけど根性がありそうだ。信頼できる。初めて会ったとき そう思った」
お互いの命を預け合うヨットのパートナーであり、恋人でもある男性にこんなことを言ってもらえる
なんて、女性として至福の喜びだと思いました。
ラストの一行は、彼女の心まで表してるようで、たまらなく爽快。